高額すぎる中学受験の塾代…「養育費を増額して元夫に払ってほしい」というシングルマザーの願いはどうなる? | ニコニコニュース
都市部で過熱する私立中学受験。その塾の費用は、総額200万円とも300万円とも言われており、かなりの高額になります。しかし、裁判所が示す養育費算定表は、公立校の教育を前提としており、私立中学受験にかかる塾の費用などは含まれていません。
そのため、中学受験を目指すシングル家庭にとっては金銭的な負担が大きく、養育費の増額をしてほしいと希望するケースがあります。弁護士ドットコムにも、中学受験の塾の費用を元夫に出して欲しいといった相談が寄せられています。
小学生の子どもがいるというあるシングルマザーの女性は、「子どもの成績が優秀で、子どもが中学受験をしたいと言っていますが、費用の負担が厳しいので、元夫に養育費を増額してほしい」といいます。「子どもの夢を潰したくない」という女性の声は切実です。
中学受験のための塾の費用は、養育費として認めてもらえるのでしょうか。離婚問題に詳しい水谷江利弁護士に聞きました。
●父親が同居中から承諾していれば認められる可能性が高い
——もし養育費増額のための調停を申し立てた場合、受験塾の費用は加算してもらえる確率は高いのでしょうか。
ご相談にある中学受験のための受験塾の費用は、いわゆる「特別費用」といわれる、通常の算定表内の養育費の金額内には含まれていない部分です。
算定表による養育費は公立学校に在籍した場合を想定したものですから、私立学校の場合はこれを超えた支払いが認められることがありますし、その受験のための塾代も同様です(なお、「公文」やそろばんといったよくある習い事であって受験対策でない塾については、通常の養育費の範囲内とされることが多いでしょう)。
確率、額についてのご質問ですが、「一定の条件」を満たせば、「一定の金額内」で、加算してもらえると思います。
——「一定の条件」とはどういうものなのでしょうか。
それは、通塾についての「養育費を払う親からの承諾」又は「学歴、収入からみた、これに準じる合理性」です。
つまり、通塾又は受験が、元ご主人(以下、「父」または「お父さん」といいます)により同居中からもともと承諾されていたものである場合には認められる可能性が高くなります。
また、そこまでのちゃんとした明示的な承諾はなくても、父母の学歴、父の年収やこれまでの教育の在り方などからして、お父さんが承諾してくれることが期待されるような場合にも、同様のことがいえます。
逆に言えば、夫婦とも公立に進学し最終学歴が高卒であったのに、子は私立中学受験のために塾に行く、などの場合や、必ずしも父の収入は十分でないのに、高額な塾代を負担させることなどは、認められないことがあると思います。
ご相談の事案では、お父さんが、塾に行くこと、行くであろうことを知っていたとか、受験は応援していたなどの場合、または、そこまでではないけれど、学歴も収入もある方で、子どもが頑張っているなら認めてあげてもいいのではないか、といえる場合には、塾代部分を加算してもらえる可能性があることになります。
●「調停」で折り合いがつかなければ「審判」に
——では、「一定の金額内」とはどの程度のものなのでしょうか。
通常の算定表内の養育費にも、一定の金額の教育費部分が含まれています。
少し古いデータを参考としてはいますが、算定表は、平均的年収の家庭において、14歳までの子一人にかかる教育費が公立中学校平均で13万1379円、15歳以上の子について公立高校平均25万9342円であることを前提として作成されています。この費用は、算定表の月額の養育費に含まれているということです。
父の収入が平均的年収を超える場合、生活費のうち62分の11、85分の25が教育費分であるとして計算することもあります。
父の年収が高額で基礎となる養育費が多ければ多いほど、その中に含まれている教育費の額も多いことになります。
塾代は、いずれにせよ、この基礎部分を超える金額について、その超えた部分を、双方の収入の比率において分担する、とされています。
「基礎費用に含まれている部分を超えた部分」について「分け合って」負担してもらうことになるのであり、塾代の全額が認められるわけではないことに注意しましょう。
——相談者のシングルマザーの女性は、「もし調停でも認められなければ、私の稼ぎだけでは子どもの応援はできないので、子どもの夢を潰せば良いのでしょうか」と心配されています。
調停で(相手方であるお父さんに)認められない場合、養育費の調停は、離婚調停時の養育費の取り決めと異なり、当事者の話し合いによる「調停」から、裁判所の決定による「審判」へと移行します。
お父さんが認めてくれなくても、前述のような「条件」を満たしていることを説明し、通常の養育費を超える範囲の加算について裁判所に認定してもらえるようにすればよいと思います。
とはいえ、本来は、話し合いか、少なくとも調停でお父さんに認めてもらいたいものです。そのためには、面会交流などにより、子どもが普段頑張っている状況を共有し、理解が得られやすくすることも大切かと思います。
【取材協力弁護士】
水谷 江利(みずたに・えり)弁護士
東京都立大学卒業後、新卒で大手弁護士事務所に入社、渉外企業法務を志して弁護士に。「もっと人の人生の近くで仕事がしたい」との思いから、2015年世田谷用賀法律事務所を開所。現在は個人の相続、離婚、不動産を中心に、国際離婚や企業顧問なども多く取り扱う。英語対応可能。東京弁護士会所属。
事務所名:世田谷用賀法律事務所
事務所URL:https://setayoga.jp/