子どもが補導された! これからが不安、将来への影響はある? 元警察官が解説 | ニコニコニュース
「中学生の息子が補導されたんです」。先日、筆者の知人からそんな切迫したメールが届いた。「何もそこまで大げさに受け止めなくても」と思ったのだが、考えてみれば、日頃は縁のない警察と接点ができるのだから、不安になるのも当然かもしれない。
特に親が知りたいのは、子どもの将来にどんな影響があるのかという点だろう。そこで「補導」とは何か、知人からの質問に答える形式でお伝えしたい。(ライター・鷹橋公宣)
●補導の目的は?
——知人「子どもは18時15分ごろゲームセンターにいたところ、警察官に声をかけられたそうです。そもそも補導とはどんな目的で行われているのでしょうか?」
「補導」とは、警察法第2条1項の「個人の生命・身体・財産の保護、犯罪の予防」や「公共の安全と秩序の維持」を前提として、少年警察活動規則第1条の「少年の非行の防止および保護を通じて少年の健全な育成を図る」という目的を達するためにおこなわれる活動です。
まだ身体的にも精神的にも未成熟な時期にあたる少年は、周囲の環境や人間関係に感化されやすく、興味本位で罪を犯したり、事件や事故に巻き込まれたりするケースが少なくありません。
そこで、犯罪や事件・事故に近づいてしまう危険が強い行為を定めて、将来を戒め、健全な少年時代を過ごすように指導するのが「補導」の目的です。
実際に補導した少年からは「余計なお世話だ」「個人の自由だし警察には関係ない」などと反発を受けることも多いのですが、当の警察官もそんな気持ちは十分承知しています。すでに大人になっている警察官たちも、少年時代は同じような気持ちを抱いていたものです。
しかし、大きな問題に発展する可能性があるのだということを少年自身に知ってもらい、家族などに危険な兆候を知らせるという大切な意味があるので、補導がおこなわれています。
●どんな行為が「補導」対象なの?
——知人「どんな行為が補導となるのでしょうか。今回は18時以降にゲームセンターにいたことが理由でしたが、そのほかに注意点はありますか」
まず、補導の対象となるのは「少年」です。ここでいう少年とは、少年法第2条1項の規定によって「20歳に満たない者」と定義されています。
すると、大学に入学したばかりの学生や高校を卒業してすぐに就職した有職少年も補導の対象となりますが、民法上では成年に達しているため、実際の現場では口頭注意のみで済まされるほうが多いでしょう。
補導の対象となる行為は、明確な犯罪や法令違反にあたるとまでは言えないものの、そのまま放置すれば少年の健全育成に支障があるものだとされています。
警察庁の通達によると、飲酒・喫煙・薬物乱用・粗暴行為・刃物などの所持・カツアゲ行為・無断で家族の金品を持ち出す行為・性的いたずら・暴走行為・家出・無断外泊・深夜はいかい・怠学・不良交友や不健全娯楽など全17の行為が補導の対象です。
今回のケースでは、少年の健全育成に支障のある娯楽に興じていたという「不健全娯楽」が理由となって補導されたのでしょう。
●親の情報を伝える理由は?
——知人「当日、本人が名前、住所、学校名、両親の名前とどちらかの親の連絡先を紙に書いて渡したそうです。翌日、親のところにも警察から連絡があり、その際に世帯主の年齢も聞かれました。どんな目的があるのでしょうか」
少年を補導した警察は、その場で本人に注意を与えたうえで保護者に対して不良行為の事実を連絡し、少年の監護や指導を強化するよう促すものとされています。
詳しい個人情報を尋ねられて不快に感じたかもしれませんが、少年自身の就学状況や家庭環境は健全育成を目指すうえでも大切な情報なので、差し支えない範囲で回答するとよいでしょう。
——知人「当日は連絡先などを聞かれたあと、すぐに解放され、翌日、親のところに電話がありました。一般的に補導されると、どのような対応をされるのでしょうか」
たとえば職務質問したところタバコをもっていることが発覚した、今回のように夕刻にゲームセンターにいたといった悪質性の低い行為では、現場における指導と保護者への連絡のみで済まされるケースが多数です。
一方で、家出や深夜はいかいなどのように、少年をその場に残せば犯罪や事件・事故に巻き込まれる危険の高い行為があると、警察署へ任意同行され、保護者に連絡して迎えを依頼する流れになるでしょう。
なお、呼び出しを受けて少年を迎えにきた保護者には、今後の監督を誓約する書類に氏名・住所・連絡先などを記載するよう求められます。
●学校にもバレてしまう?
ーー知人「学校への連絡は必ずありますか?」
警察庁の通達によると、少年の非行防止や健全育成を図るうえで必要と認められ、保護者だけでなく学校や勤務先にも少年への指導を求めることが特に必要な場合は、学校・勤務先の関係者へと連絡するよう定められています。
さらに、各都道府県警察と教育委員会の間には「学校・警察相互連絡制度」が設けられており、少年の非行防止や安全確保のために情報共有がおこなわれているので、補導された事実は学校へと伝えられる可能性が高いでしょう。
学校の対応次第ですが、補導された本人は反省文の提出などを求められるかもしれません。
——知人「補導されると、巡回連絡カードに書かれたり、最寄りの警察署に登録されるのでしょうか?」
補導の目的は、あくまでも少年を犯罪や事件・事故から守ることにあります。成人が罪を犯した場合と異なるので、少年自身にとって不利な情報が残るものではありません。
実は、少年補導票は「紙」ベースで保管・管理されています。データベース化されて組織内で共有される情報ではないので、犯罪経歴のように登録される心配は不要です。
保護者への連絡においてとくに配慮すべき事項があるときや、生活安全課の少年担当者から少年の自宅があるエリアを受け持つ交番・駐在所の地域警察官に引き継ぎ事項があるときは巡回連絡簿に記載される可能性があります。
ただし、巡回連絡簿も紙ベースの保管・管理で外部には一切明かされないので、たとえ補導に関する情報が記載されたとしても少年やご家族にとって不利にはたらくことはありません。
●補導経験があると警察官にはなれない?
——知人「可能性は低いですが、将来、警察官を志した時に補導歴が問題となる可能性はありますか」
少年補導票には保存期限があります。次に挙げる3つのタイミングで廃棄処分の対象となり、その年の文書廃棄がおこなわれる際に廃棄されるのが決まりです。
①少年を補導したが本人への注意や指導だけで十分であり保護者への連絡をしなかったとき
②少年補導票に記載された少年が成人になったとき(※少年法上では満20歳)
③そのほか、保管の必要がなくなったとき
いわゆる補導歴はデータベースとして管理されていないので、警察内部でも「〇〇くんには補導された経歴はあるのか?」といった照会はできません。
その場で警察官から注意を受けただけで保護者や学校への連絡がなかった、成人して警察官の採用試験を受験したといったケースでは、少年補導票が廃棄されているので補導された記録もなくなっています。
ただし、薬物乱用や刃物の所持、恐喝、暴走行為といった明らかな違法行為があった場合は別です。
補導をきっかけに事件化されて家庭裁判所に非行歴が記録されたり、捜査機関に犯罪経歴が残ったりする可能性があります。このような悪質性が高い行為があると、採用に際しての調査で発覚して不利な扱いを受ける事態も考えられるでしょう。
一方で、飲酒や喫煙、深夜はいかい、ゲームセンターなどへの立ち入りといった比較的に悪質性の低い行為があったとしても、警察官採用試験において不利にはなりません。
筆者の同期生のなかには、警察官を志望したきっかけとして「少年時代に補導され、熱心に指導されて感銘を受けた」といった経験を語った人もいました。
補導された経歴があっても警察官に採用された人が実在するので、公務員や一般企業への就職、資格取得などへの影響を心配する必要はないでしょう。
大切なのは、補導された本人に「将来を守るために自分を大切にする」という気持ちが芽生えてくれること、そしてご家族も一丸となってその気持ちをサポートすることです。
単に非行行為を戒めるだけでなく、補導をきっかけに家族でじっくりと話し合い、少年が犯罪や事件・事故に巻き込まれる事態にならないように導いてあげてください。
【プロフィール】 鷹橋公宣(ライター):元警察官。1978年、広島県生まれ。2006年、大分県警察官を拝命し、在職中は刑事として主に詐欺・横領・選挙・贈収賄などの知能犯事件の捜査に従事。退職後はWebライターとして法律事務所のコンテンツ執筆のほか、詐欺被害者を救済するサイトのアドバイザーなども務めている。