彼はいかにして“大谷翔平”になったのか?功績と素顔に迫る映画『Shohei Ohtani - Beyond the Dream』をレビュー | ニコニコニュース
野球界において道なき道を進み、いまや世界のスーパースターとなった“二刀流”のメジャーリーガー、大谷翔平選手。折しも、米大リーグで史上初となった、2度目の満票選出によるMVPを獲得したばかりである。そんな大谷選手に密着したドキュメンタリー映画『Shohei Ohtani - Beyond the Dream』が、ディズニープラスで独占配信中だ。大谷選手自身と、彼を語るうえで欠かせないスター選手や名監督、代理人などの独占インタビューや記録映像から構成される本作を観ると、大谷選手がなぜ、唯一無二の存在として輝き続けられるのか、そのヒントのようなものが見えてくる。
【写真を見る】大谷翔平の華麗なる足跡を振り返るドキュメンタリーがついに配信開始!
メガホンをとったのは、ロサンゼルスを拠点とする映像監督、時川徹。英語版のナレーションを、米野球殿堂入りした元レッドソックスのペドロ・マルティネスが、日本語版を、ヤンキースなどで活躍した松井秀喜が担当する。大谷選手について語る出演者は、この2人をはじめ、パドレスのダルビッシュ有選手、元ヤンキースのCC・サバシア選手、日本ハムと侍ジャパン元監督の栗山英樹、元エンゼルス監督のマイク・ソーシアとジョー・マドン、代理人のネズ・バレロらだ。
前代未聞の二刀流選手として、数々のMLB記録を塗り替え、侍ジャパンのWBC優勝にも貢献した大谷選手。人は彼を「ユニコーン」「ベーブ・ルースの再来」と称賛してきたが、なぜここまでの成績を収めることができたのだろうか?それは持って生まれた天賦の才だけではなく、大谷自身が置かれた環境や人との出会いが大きかったことが、映像を観てわかってきた。
※本記事は、本編の核心に触れる記述を含みます。未見の方はご注意ください。
■「なりたい大人」は「普通の人」と書き記した小学1年生の大谷
まずは、スタート時点から注目していきたい。大谷選手がここまで多くの人に憧れられ、愛されてきたのは、文句なしの成績に加え、謙虚で穏やかな人柄によるところも大きい。どんなにすばらしいタイトルを獲得しても、彼は決して浮き足立つことはなく、いつもフラットに受け止めてきた。熱い情熱をあらわにすることも実にまれであり、まるで極めて高温の青い炎を出すバーナーを内に秘めているようだ。
大谷選手の功績はもちろん、人となりを称えるマルティネスは、「成功を支えたのは、偉大な両親です。大谷選手をここまでの努力家に育てました」と大谷の両親を称える。実際に大谷選手の両親に接してきた栗山監督も、彼らの愛情深さを口にしたうえで「余計なことを言いすぎず、常に彼に判断させる」とその懐の深さについて語っていた。確かに大谷選手が何事においても自分自身がジャッジを下すという決断力は、どうやら幼少期から培われていたものらしい。
本作では、大谷選手自身がまだあどけない野球少年だったころについても振り返っている。なかでも小学校1年生の時、「なりたい大人」について「普通の人」と書き残している点が実にユニークだ。その年齢ですでに悟りの境地に達していたのかといえば、そうではないよう。
これについて栗山監督は「小学校1年生の時から謙虚さというか、大げさに言うよりは、行動で示すと。そう教えてきた両親がすごい」と、マルティネスも「彼は間違いなく特別だ」と感心する。しかし、大谷自身は一切、天狗になることもなく「ちょっと大きめの普通の小学生でした」と微笑みながらコメント。まさに大谷の人柄を物語るワンシーンだった。
■松井秀喜やマルティネスも感嘆!大谷選手が高校1年生で描いた夢チャートとは?
本作では、メジャーリーガーになる前の高校球児だった時代の大谷にもスポットを当てている。そのころの大谷が、いかに未来を見据えていたかは、彼が高校1年生の時に書いたという自分の夢を書いたチャートからうかがい知れる。一番中央に書かれた目標は「8球団からドラフト1位」で、そのために必要な要素として、体作り、メンタル、コントロールなど8つの項目を挙げており、さらにそれらを実行するにあたって必要な要素を書き込んでいる。
これを目にすれば、一般人が仰天するのはもちろんだが、その道のプロであるマルティネスや、松井も大いに感銘を受けていた。大谷本人はというと、大いに照れて「押入れに隠したい」とはにかむ。こういった大谷選手のチャーミングな表情も、これまた観る者を惹きつける。
また、大谷は「最初が大事なのかなと。書いて目にするのは単純だけど効果的だ」とも語っているので、そこはぜひ、大谷の背中を追っていくであろう高校野球児たちも、ぜひ参考にしてみてほしい。
そんな確固たる未来予想図を描いた大谷選手は、1つずつ地道にチャートの目標をこなしていき、そのまま夢を実現した。とはいえ、それは大谷が闊歩する大きな夢への一里塚に過ぎない。CC・サバシアも大谷を心からリスペクトし「実際に行動するというのは誰にでもできることではない」とうなる。
一事が万事なのだが、大谷が歩む野球道には、まったくぶれがない。清々しいほど真っ直ぐで、ある意味とても愚直で、だからこそ美しい。二刀流という、誰も持っていなかったような最強の武器を手に入れた大谷だが、それは一朝一夕で作り上げたものではなく、普段の生活そのものの積み重ねなんだということを、大いに納得させられた。
■すべての人が何百年も憧れていくであろう大谷の野球道
本作では、大谷選手がこれまで歩んできた野球道においてハイライトとなる名シーンが数多くちりばめられている。なんといっても、彼は100年越しの記録を打ち立てる選手だから、その活躍ぶりは枚挙にいとまがない。それらは何度も観ているはずなのに、観る度に胸熱になってしまう。記憶に新しいWBCでのハイライトといえば、もはや野球漫画を超えたと称賛された、大谷翔平選手VSマイク・トラウト選手という、エンゼルスのチームメイト対決だ。侍ジャパンが3-2とリードした9回表に登板した大谷が見事、トラウトを三振に打ち取る。これはできすぎだった!これ以上のドラマを誰が予想しただろうか?
劇中には、大谷が二刀流の道を選ぶにあたってのやりとりから、メジャーリーガーとなって以降の道のりについて、いまだから明かせるといった関係者たちの秘話もたくさん入っている。加えて、大谷が当時は口にしなかったという本音などを告白するシーンもあり、まさにファン垂涎の内容となっている。
繰り返すが、大谷はまだここからさらなる高みを目指していく。いまはまだ“途上”なのだ。二刀流の大谷選手にとって、育ての親とも言える栗山監督は、大谷選手について「“求道者”とは言わないけど、すべての人がこれから何百年も憧れる道を彼は歩んでいる」と興奮しながら語っている。本当にそのとおりだと思うが、特筆すべき点は、大谷は冒険することを決して恐れないチャレンジャーであることだろう。ダルビッシュ選手も「僕よりも大谷選手のほうが怖がらずにいろんなことができる」と太鼓判を押すが、そこがなんとも頼もしいのだ。
大谷自身は、二刀流の道を選んだことについて「なにが正解だったのか。自分が決断したことが正解だ、としか言えない」と語っていたが、確かにそこに尽きると思う。言うなれば、その答えは過去にあるのではなく、未来に託されているのだから。
『Shohei Ohtani - Beyond the Dream』というタイトルがすごくいい。すでにアメリカンドリームを実現させた大谷だが、彼の目線はさらにその向こう側を見つめている。とにかく、大谷選手を見ていると、ワクワクが止まらないし、その行動は多くのものを語りかけてくれる。だからこそ、本作は野球ファンだけではなく、いまを必死に生きているすべての方に観ていただきたい。
文/山崎伸子