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「1日2リットルを飲むべき」は呪いである…管理栄養士が「ペットボトルを身近に置かないで」と訴える理由 | ニコニコニュース

「水分補給」はどうするのが正解なのか。管理栄養士で大妻女子大学家政学部の川口美喜子教授は「こまめな水分補給がよく推奨されているが、水の飲みすぎは下痢を起こすなどむしろ健康に悪い。高齢者の脱水予防は味噌汁があれば十分だ」という――。

※本稿は、川口美喜子『100年栄養』(サンマーク出版)の一部を再編集してお届けします。

■「こまめな水分補給」をしすぎていませんか?

年を重ねると、食べることと同じくらい、水分をきちんととることは健康に必須です。春から秋にかけて、とくに熱中症になる危険がある時期には、連日、テレビニュースで「こまめな水分補給」を呼びかけています。

高齢者は「のどが渇いた」と感じる反応も鈍るので、「のどが渇いていなくても、のどが渇く前に水を飲みましょう」という。2Lのペットボトルを身近に置いておき、「1日1本は飲みきりましょう」などとアドバイスしていますね。

確かに、熱中症予防のために水分補給が大事なこと、高齢者の反応が鈍ることなど、間違いではありません。たとえば介護認定を受けている人などは、熱中症にならないよう、周囲もよく気を配らなければならない。でも、それはすべての高齢の人に当てはまることではありません。

ペットボトルを常備して飲んでいて、毎日下痢をしている人。胃酸が薄まり、ムカムカして食欲減退、食事量の低下をまねいている人。下半身がむくんだり、全身の倦怠(けんたい)感が強くなったり、水の飲みすぎで体調を崩している高齢者も多くなっています。

■水のペットボトルを常に置いておく必要はない

ある人は終日、エアコンが効いた家から出ることもなく、家事や趣味の手芸、テレビを見て過ごす。ほとんど汗をかくこともない。そんな日も、「2L飲まなくちゃ」と強迫観念にかられて、飲んでいると聞きました。明らかに必要以上に飲んでいます。

こうなってしまうと、健康情報というより“呪い”ではありませんか。

臨機応変。そう考えなければ、体がすこやかさを保とうとする力がかえって弱ってしまうのではないか、私はそんなふうに思います。

臨機応変に対処するには、「高齢者はのどが渇いたと感じる反応も鈍る」を真に受ける前に、自分や家族の反応は鈍っているか、「?」をもって見ることです。

水を飲む前、トイレの中で、「のど渇いているかな」「(下痢気味なのは)水分のとりすぎかな」と自分の体と飲食について「問う」ことが大事です。

実際に反応がやや鈍っていると思ったなら、確かに工夫が必要ですね。しかし、それでも私は2Lのペットボトルを身近に置いておくことには反対です。

「これを飲みきらなければ」と思うと、負担になるばかりで、おいしく飲めないと思うからです。のどが渇いているときに飲む冷たい水のおいしさ、のどごし、爽快感を、生涯、味わい続けたいのです。

■脱水症状は「親指の爪」をつまむだけでわかる

脱水は、ただ単に「水を飲む量と回数」では測れません。私の実感で言うと、食事回数が少ない、食事量が少なくなるなど、食事の野菜・果物・汁物からとる水分が減っている場合に、脱水症状が多い印象です。

食事を十分にとり、ごはんのときに口をさっぱりさせてくれるお水1杯、食後に好きなお茶を1杯飲んで、あとは「のどが渇いた」と感じたときに飲めば十分、と思っています。私が社会活動で出会う高齢の人たちも、そのような飲み方で十分必要な水分をとれていると感じます。

自分に問いかけてみるとは言っても、判断が難しいときには、次のようなポイントがあります。

①朝のおしっこの色はどうですか?

尿の色は、脱水気味かどうかのサインになります。体内の水分を保とうとして尿としての水分が減ると、おしっこの色は濃くなります。昨日食べたり飲んだりした食事や回数を確認してください。

②爪をつまんでチェックしましょう。

まず、手の親指の爪がピンク色かどうかチェックします。次に反対の手で親指の両脇をつまんでみてください。ピンク色から白っぽい色に変わるはずです。そのあと、つまんでいた指を放してすぐ、もとのピンク色に戻ったら、水分は十分とれています。戻るまでに3秒以上かかるときは脱水症状の疑いがあります。

■水分不足を「水」だけで補っていないか

水分不足を「水」だけで考えないで、食事全般で見渡します。野菜・果物・汁物が減っていませんか? 野菜や果物は8割から9割が水分です。間食を水分とともに食べていますか? 食べていなかったら、食べる習慣をもちましょう。

健康情報や呼びかけを暮らしに取り入れることはよいことだけれど、「よい結果」につなげるには、取り入れる前に自分への「問いかけ」が必要です。

こうした問いには自分と、ときとして家族以外、誰も正しく答えることはできません。一般論は、一般論にすぎないのです。とくに食生活は、みなさんそれぞれ多様な営みを長く続けてきて、いまがあるので、一般論が当てはまる人は思う以上に少ない。私は、これまでたくさんの人の栄養を見てきて、そう思っています。

だから、食べたり、飲んだりして栄養をつけようと思うとき、主治医は自分と思ってください。家庭での食生活改善で間に合わない問題が起きた場合には、私たち管理栄養士という「食べるに関するプロ」のサポートを活用していただきたいと願っています。

■脱水症は朝晩の「味噌汁」で防げる

出かけたり、運動をして汗をかいたりする日、脱水症や熱中症が心配なときは、朝ごはんと夜ごはんでカボチャワカメの入った味噌汁を飲みましょう。

水分とミネラルを効率よく補給できるスポーツドリンクを飲むのもいいですが、それ以上に1杯の味噌汁にはナトリウムカリウムマグネシウムなど必要な栄養が豊富です。

「塩分のとりすぎを防ぐために味噌汁を飲まない」などと言われることがありますが、それは理にかなっていません。そもそも味噌汁の塩分は際立って多いわけではないですし、材料の大豆により一緒にカリウムがとれます。

カリウムには、尿が出やすくなる作用があり、排尿時にカリウムとほぼ同量の塩分(ナトリウム)を排出してくれる作用をもっているので、味噌汁ばかりを減塩の的にすることはないのです。

たとえば、煮干で出汁をとり、赤味噌(1杯分10g)を使ったカボチャ(薬味ネギ)の味噌汁の場合、1杯の栄養成分は次のとおりです。

■高価な機能性飲料を飲むよりコスパがいい

あるスポーツドリンク100mlと比べ、ナトリウムカリウムは約4倍、マグネシウムは約10倍でした。スポーツドリンクよりカロリーも高く、スポーツドリンクには含まれないタンパク質や脂質もとれます。スポーツドリンクに含まれるブドウ糖や塩素が味噌汁には含まれません。

味噌汁で脱水症や熱中症の予防ができるのです。暑い季節が長引く中、連日のように高価な機能性飲料を飲むのは、お財布に負担になりますが、味噌汁コスパもいい!

以前、私の故郷に近い松江市中学校の野球部員と保護者に、真夏も元気に練習や試合ができるよう、栄養のアドバイスをしたときも味噌汁をすすめました。部員数が大会に出られるギリギリの数だったので、誰もダウンするわけにいきません。みんな朝晩ちゃんと味噌汁を飲んでくれ、誰も欠くことなく勝ち上がり、中国地方大会に出場しました。

朝晩、「味噌汁を飲む」ことがきっかけで食生活が見直され、味噌汁に合わせてごはんやおかずを整えるようになり、食事が全体的に充実したことも影響したと聞いています。

味噌汁があると、ごはんがおいしくて、おかずも欲しくなりますものね。野球部員たちはしっかり食べて活躍し、その話題は町の人たちまで元気にしました。

■塩分が心配でも、「味噌汁断ち」はしてはいけない

味噌汁は塩分が高いと信じられているようですが、それはまったくの誤解です。

先にも述べたとおり、味噌は塩分(ナトリウム)を多く含んでいても、ナトリウムを体外へ排出するはたらきをもつカリウムも多く含みます。みなさんもご存知のとおり、発酵食品ですから腸のはたらきを保つためにも、毎日食べてよいもの。健康効果の高い食品の1つです。

さらに、みなさんがイメージしているほど1杯の味噌汁の塩分量は高くありません。

1杯の塩分量は約1.2gというのが定説になっていますが、実際には、家庭でつくられている味噌汁は、ほとんどの場合それほど塩分を含んでいません。

大学で、管理栄養士をめざす学生たちに「家で味噌汁をつくる鍋、味噌、お椀、具材」などを持参してもらい、普段どおりに味噌汁をつくってもらい、お椀によそった1杯分の塩分を量ってみたことがありました。

結果、平均的に塩分量は1杯0.7gで、味も十分に満足できるものでした。

確かに、日本人は「塩分とりすぎ」傾向にありますから、減塩を心がけるのはよいことで、中高年以降の人の生活習慣病を防ぐために「減塩」は重要です。

ただし、「減塩のために味噌汁は飲まない」はあまり的を射ていません。味噌汁は飲み、発酵食品である味噌と、実として入れる野菜や海藻、大豆製品などの組み合わせで得られるメリットを優先しましょう。減塩はほかのことで試みるのが得策です。

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川口 美喜子(かわぐち・みきこ)
医学博士 大妻女子大学家政学部教授 管理栄養士
専門は「病態栄養学」「がん病態栄養」「スポーツ栄養」。島根大学医学部附属病院で栄養管理室長を務め、NST(栄養サポートチーム)を立ち上げるなど、“食事をとおした治療”に積極的に参加。現在は、大学で後進を育てながら、地域医療のパイオニアである「暮らしの保健室」(東京都新宿区江戸川区)や、がん患者とその家族が訪れるマギーズ東京(東京・豊洲)などにて、栄養指導、栄養ケアを行う。病気や日々の暮らしに問題を抱える多くの人のために、卓越した栄養学の知識を具体的な食事に落とし込んで支援している。著書に『老後と介護を劇的に変える食事術』(晶文社)など。

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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/whitewish

(出典 news.nicovideo.jp)

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