新規上場社数、リーマン・ショック後2番目に多い96社 業種別、「AI」「DX」支援事業目立つ | ニコニコニュース
2023年の国内株式市場は、円安による企業業績の改善やデフレ脱却への期待、米国の「利上げ終了」の示唆、海外勢による日本株の再評価などが寄与し、日経平均株価は年間で28.2%(7,369円67銭)上昇した。上昇率は日本銀行が異次元の金融緩和政策を導入した2013年以降で最も高く、上昇幅はバブル絶頂期の1989年以来の高水準で、歴代第3位となった。こうした市場環境のなか、新規株式公開(IPO)社数は前年の91社から5社増加し、96社となった。
そこで、帝国データバンクは、企業概要データベース「COSMOS2」(約147万社収録)などを用いて2023年の国内IPO市場の動向と特徴について集計・分析した。
<調査結果(要旨)>
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設立から上場までの期間、前年より1.3年伸長し17.8年に
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社長平均年齢、前年比0.4歳増の51.6歳。全体より約10歳若い傾向続く
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IPO企業で3年後に売上高が1.5倍以上となる可能性が高い企業割合は全体の約7倍に
調査対象:2023年中にIPO(新規株式上場)を果たした企業
IPO社数は前年から微増、リーマン・ショック後2番目の多さも100社に届かず
2023年にIPOを果たした企業(以下、2023年IPO企業)の数は96社と、前年の91社から5社増加した。リーマン・ショック後の約15年間でみると、新型コロナ対応として世界的な金融緩和が行われていた2021年の125社に次ぐ水準となった。しかし、100社に届かず、リーマン・ショック前の水準への回復はまだ遠い状況である。
規模の面では、初値で換算した時価総額が1,000億円超の大型IPOは前年から倍増し6社だった。なかでも、半導体製造装置大手のKOKUSAI ELECTRIC(旧日立国際電気、東証プライム)の初値ベース時価総額は約4,800億円と、2018年に上場したソフトバンク(約7兆円)に次ぐ規模となった。
また、96社のうち初値が公開価格を上回ったのはKOKUSAI ELECTRICを含む67社だった。全体に占める割合は69.8%となり、前年(79.1%)より9.3ポイント低下した。
市場別、「東証グロース」が7割近くでトップ維持も、割合は減少傾向
市場別にみると、高い成長可能性が期待される「東証グロース」(66社)は全体の68.8%を占めてトップを維持したが、割合は前年(76.9%)より8.1ポイント低下した。
他方、「東証スタンダード」は前年より8.6ポイント高い24.0%となり、東証グロース一極集中に変化がみられた。
業種別、テック企業が引き続きけん引。AI/DX支援事業目立つ
業界別では、「情報サービス」を含む『サービス』が66.7%(前年比3.6ポイント減)で突出して高かった。次いで、主にグループ会社の経営管理等の「その他の投資業」が含まれる『金融』(14.6%、同9.1ポイント増)、『製造』(11.5%、同4.9ポイント増)が続き、いずれも前年から増加した。
さらに細かく業種別にみると、「ソフト受託開発」や「パッケージソフトウェア」を含む「情報サービス」が全体の26.0%(25社)で引き続きトップとなった。
デジタルプラットフォーム事業を運営するABEJA(東証グロース)や建設業を中心としたDX(デジタルトランスフォーメーション)コンサルティング等を提供するArent(東証グロース)などが含まれる。
次いで、「金融」が14.6%(14社)で続いた。そのうち、グループ会社の経営管理等の「その他の投資業」は10社であり、グループ傘下のアミューズメント施設運営のエンターテイメント事業会社を経営支援するGENDA (東証グロース)などが含まれる。ほかにも、住信SBIネット銀行(東証スタンダード)がネット銀行初のIPOを果たし、同業の楽天銀行(東証プライム)も新規上場した。
また、VTuberプロダクションの運営事業を手掛けるカバー (東証グロース)など「その他サービス」が12.5%(12社)だった。
総じて、製造業のシェアは前年より増加したものの、デジタルおよびITテクノロジーを活用するいわゆる「テック企業」の新規上場が引き続き全体をけん引した。なかでも、初値騰落率トップのアイデミー(東証グロース) などAIやDXソリューションを提供する企業が目立った。
設立から上場まで、前年より1.3年伸長。社長平均年齢は全体より若い50代前半の傾向続く
2023年IPO企業の設立から上場までの期間は平均17.8年で、前年(16.5年)から1.3年伸長した。
その一因として、設立から事業化・商品化までの期間が比較的短いIT関連企業の割合が小さくなった一方、ある程度の時間を要する製造業の割合が大きくなったことが考えられる。
他方、2023年IPO企業の社長の平均年齢は前年(51.2歳)から0.4歳上昇し、51.6歳となった。ただ、全体の社長平均年齢を10歳近く下回る水準で推移している。年代別にみると、「50代」が最も多く全体の3割を占めた。
2023年IPO企業の6割がスタートアップ企業。「インパクトIPO」も複数社みられる
「出口戦略」(イグジット、EXIT)としてIPOを目標に据えているスタートアップが多いなか、2023年IPO企業96社のうち「スタートアップ企業[1]」は60社と、全体の62.5%を占めた。
なかでも、2023年4月に民間初の月面着陸を目指したispace(東証グロース)は大きな注目を浴びた。また、法人向けのChatGPTプラットフォーム「ChatMee」などを提供するAVILEN(東証グロース)の代表取締役である高橋光太郎氏は、2023年IPO企業のなかで唯一20代社長となった(2023年終了時点の年齢)。
また、社会課題の解決を掲げる企業の上場、いわゆる「インパクトIPO」も複数件みられる。NPOとして創業した企業がIPOを果たす初めてのケースとなった、産直ECプラットフォームを運営する雨風太陽(東証グロース)のほか、社会・環境に関する一定の要件を充足した企業への国際的な認証制度「Bコープ」認証企業として初めてのIPO企業となった社会貢献型フードシェアリングプラットフォームを提供するクラダシ(東証グロース)などがあげられる。
[1] 「スタートアップ企業」は、帝国データバンクが把握しているスタートアップ企業データベース(約4,000社)に含まれている企業2023年IPO企業は、3年後に売上高が1.5倍以上となる可能性が高い企業割合が全企業の約7倍に
帝国データバンクが有する信用調査報告書(CCR)の情報をもとに、「その企業の売上高が、3年後に1.5倍以上になるか否か」を予測する成長性予測モデル「SP」を用いて、IPO企業の成長性を分析した。
その結果、分析が可能な全24万社と比較して、IPO企業では高いポテンシャルが数値として現れる結果となった。2023年12月時点において、3年後に売上高が1.5倍以上になる可能性[TDB1] が最も高い「SPレベル10」の割合は、全企業[TDB2] では7.1%だったのに対して、2023年IPO企業群では48.4%と全企業の約7倍にのぼった。IPOを果たす3年前である[TDB3] 2020年以降、各時点のいずれも同様な結果がみられている。
<成長性予測モデル「SP」について>
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帝国データバンクで調査している信用調査報告書(CCR)の情報をもとに、「その企業の売上高が、3年後に1.5倍以上になるか否か」を予測するモデル。予測結果を10段階の「SPレベル」に変換、レベル6以上で“成長性が高い”と判断でき、実際にSPレベルが高いほど成長した企業が多く発生している。また、自然言語処理に特化した「BERTモデル」、スコアリングモデル「ロジスティック回帰モデル」の2種類を使用している。東証プライム(東証一部)上場企業、資本金10億円以上などの大企業、金融業などは予測対象外。
2023年のIPO社数は前年から5社増えて96社となった。直近では世界的な金融緩和が行われていた2021年に次ぐ水準となったものの、100社に届かず、リーマン・ショック前の水準に回復していない。
業種別にみると、AIやDXソリューション事業を手掛ける企業が多くみられた。IPO企業の設立から上場までの平均期間は前年から1.3年伸長し17.8年となり、社長の平均年齢は微増の51.6歳で全体を10歳近く下回る傾向が続いている。また、成長性予測モデル「SP」を用いてIPO企業の成長性を分析したところ、IPO企業は3年後に売上高が1.5倍以上となる可能性が高い企業割合が全企業の約7倍にのぼることが分かった。
ロシアによるウクライナ侵攻やハマス・イスラエル紛争の長期化といった地政学上の不確実性の高まりなどで2024年も投資マネーの勢いの弱さは引き続き懸念される。しかしながら、2023年10月に行われた、IPO企業にとってメリットが大きいと言われているIPOの公開価格設定プロセスや上場日程を決めるルールの変更に加え、国内株式市場が堅調に推移するとの予想などが2024年のIPO市場の追い風となることが期待されている。