朝食の有無で「人生の収支」が変わる…東北大の調査でわかった「朝食と年収&就職先」の驚きの相関関係 | ニコニコニュース
■ヨーグルトと納豆はほぼ完全栄養食
『老けない最強食』(文春新書)では食品群ごとに「どうすれば老けないか」という観点から取材執筆した。そのような見た目を維持するための食べ方は、内側から健康になれる方法だ。そして一冊を書き終えた今、子ども時代から食に関してある2つを大事にすれば、それは生涯の健康財産になると思った。
ひとつは、「ヨーグルト」か「納豆」を毎日食べることだ。この2つは本書で「最強の食品」として紹介し、どのような老けない作用があるのかを記している。さらにこの2つを、大人になってからではなく子ども時代から食べることで、より大きな効果を得られると思う。
理由として、まずヨーグルトも納豆も、ほぼ完全栄養食であること。管理栄養士の望月理恵子氏が説明する。
「ヨーグルトにはタンパク質、ビタミンA、B、K、カルシウムなど幅広い栄養素が含まれています。足りないのは食物繊維とビタミンCぐらいですが、これもキウイやバナナなどの果物を加えることで補えます」
良い働きをする菌を「プロバイオティクス」と呼び、これを増殖させ、元気にさせる成分を「プレバイオティクス」という。プレバイオティクスの代表がオリゴ糖と食物繊維だ。キウイもバナナもオリゴ糖と食物繊維を共に含むので、プレーンヨーグルトにどちらかをプラスすれば、全て一緒に摂れて最強の食品に。
「納豆も、原材料の大豆が五大栄養素(タンパク質、炭水化物、脂質、ビタミン、ミネラル)のほぼすべてを備え、体内で生成できない9種類の必須アミノ酸も含むという優れた一品です」(望月氏)
■誰もが世界にたった一つの腸内フローラをもつ
次に、これが重要なのだが、ヨーグルトも納豆も発酵食品であるため、腸内に有益菌(腸内細菌)が取り込まれ、腸内環境に働きかけることだ。腸内細菌が棲(す)む腸内環境――腸内フローラといわれるが、この原型は子ども時代につくられる。そして誰もが世界にたった一つの腸内フローラをもつ。腸内環境に詳しい第一会最高顧問の後藤利夫医師がこう説明する。
「人は母親の胎内にいる時は無菌の状態です。そして産道を通って生まれてくる時にはじめて細菌と出会います。生まれてからは母乳や離乳食など口から入ってくるもの、母親の体やベビーベッドなど体に触れるものから、どんどん細菌を体内に取り込んでいきます。
母親も、育つ環境も一人一人違いますから、腸内フローラも同じ人はいないのです。親子、兄弟間でも異なります。一般的には3歳くらいまでに腸内フローラの原型がつくられ、この時の腸内フローラが最も良い状態だといわれます。以降は腸内細菌の縄張り争いが生涯続くことになります」
■子どもの免疫獲得を遠ざける抗菌・殺菌ブーム
近年、腸にさまざまな腸内細菌が棲むことが大事で、「腸内フローラの多様性」が健康を維持することがわかってきた。言い換えると、ある特定の腸内細菌の“ひとり勝ち”が良くないということ。
だからこそ子ども時代にはいろいろな菌に触れ、体内に取り入れたほうがいいのだが、コロナ禍より前から国内では抗菌・殺菌ブーム。体内に入る菌の数や量が減って、子どもたちの腸内細菌の種類や量が減少傾向にあるという。後藤医師は子どもたちの将来を憂慮する。
「人は皮膚にいる常在菌なども含め、いろいろな菌を体内に入れることで免疫を獲得していきます。子どもの頃に菌を排除してしまうと、免疫力が下がり、将来的に病気に感染しやすくなります。脳腸相関の観点からはキレやすい子や、発達障害の増加にもつながっていく可能性があると考えられます」
せめて食事からは、腸内フローラの原型がつくられる子ども時代に、発酵食品を通じて有益な腸内細菌を取り入れてほしいと思う。
■就職した会社、年収とも、朝食摂取と関係がある
子ども時代に重要なこと2つめは「朝ごはんを食べること」だ。
農業・食品産業技術総合研究機構上級研究員の大池秀明氏によると「朝食を摂取している人としていない人とでは、最終的に人生が変わるくらいパフォーマンスが違ってくる」という。
「小・中学生の学力テストの結果は毎日朝ごはんを食べている児童が明らかに成績が良く、また体力テストの結果も良いのです。これらは相関関係であり、因果関係(=成績が良い原因は朝食摂取)ではありませんが、イギリスの学生を対象にした研究でも、アメリカの児童を対象とした研究でも、朝食摂取グループはミスが少なく記憶力が良い、正解までたどり着く時間が短いなどで、良い成績に結びついています。
このことから朝食を食べると頭が働く、もしくは食べないと頭が働かないということがわかります」
さらに東北大学の加齢医学研究所が大学生400人を対象にした調査では「朝食習慣があった学生のほうが志望する大学に入っている割合が高い」ことがわかった。それも朝食習慣のある学生のほうが“偏差値の高い大学”に入っているというから驚きだ。
「就職した会社、年収とも、朝食摂取と関係がみられます。35~44歳の会社員500人に、小学生から現在までの朝食習慣と、新卒時に就職した会社が第何希望であったかをアンケート調査すると、朝食をほぼ毎日摂取するグループは第一志望の企業に就職しているのです。
また現在の年収別にグループ分けすると、年収が高いグループになるほど、小学生時代から現在まで朝食をほぼ毎日食べていた人の割合が高くなりました」
反対に、ほとんど朝食を摂らない生活を続けてきた人たちは、年収500万円未満のグループに多いという。子どもや孫がいる人は、ぜひ気をつけてほしい。
■起床後一時間以内にタンパク質を補給する
そして“おひとりさま高齢者”も無関係の話ではない。
朝食を食べないと筋肉量が減少し、肥満や糖尿病、脳卒中のリスクが高まることがわかっている。
「人それぞれ何時が朝でもいいですが、起床後一時間以内にタンパク質を補給することが重要」と大池氏が続ける。
「起き抜けは栄養素が枯渇していて、その状態で動き続けると体は筋肉に含まれる貴重なタンパク質を分解し、生きるエネルギー(ブドウ糖)を生み出そうとする。筋肉が衰えますし、筋肉の時計だけが前に進み、体内時計の乱れにつながってしまうのです」
それでは朝に何を食べればいいのだろうか。
朝は脂肪の分解に関わる肝臓が活発に活動する。そのため高カロリー食を食べても脂肪として溜め込まれにくい。
前出の望月氏は「朝カレー」を勧める。
■朝は「カレー」か「ツナサンド」がいい
「一日の始まりでもある朝は、その後に活動量が上がっていくため、カレーのように油分があってカロリーが高いものを食べても太りにくいのです。スパイスも入っているので昼にかけて体温が上昇する手助けにもなりますし、野菜も加わってバランスが整います」
栄養バランスがとれた朝食を摂る人ほど脳全体が活性化し、記憶力や論理思考が上昇するという報告もある。
ただし塩分を処理する腎臓は、朝よりも夜に活発に働くため、高血圧症の人は朝カレーを控えたほうがいいという。
塩分が気になる人や朝食はパン派なら、「ツナサンド」を。
ツナ缶は主にマグロやカツオなどの魚から製造され、その魚油には脳や血管に対する老化防止があり、心疾患のリスクを低下させるオメガ3系脂肪酸が豊富に含まれる。この吸収率が「朝」がいいというのだ。早稲田大学名誉教授で広島大学医系科学研究科の柴田重信特任教授がこう話す。
「朝食と夕食に魚油を摂取した場合でどちらが血中濃度が上がるかを比較したところ、朝ということでした。魚油に含まれるさまざまな効能を、朝に摂取したほうがより強く得られるということです」
驚くべきことに、魚油には肥満防止や花粉症を改善する効果もあるという。
■「焼き魚」や「魚肉ソーセージ」でもOK
愛国学園短期大学准教授、早稲田大学ナノ・ライフ創新研究機構招聘(しょうへい)研究員で管理栄養士の古谷彰子氏は、マウスの実験でその効能を証明した。
「花粉症の予防はもちろん、すでに花粉症になってしまった場合にも魚油、つまり魚を食べることでそのつらい症状を軽減できることがわかっています。さらに体脂肪率も抑制して肥満を防ぎます。魚といってもいろいろありますが、私は朝食でツナ(マグロ)の摂取をお勧めします。サンマ、イワシ、ニシン、マグロなどの魚の中で、マグロが最も、体内時計のリセット効果があることが私たちの研究によってわかったからです」
体内時計をリセットする働きが強いことからも、ツナサンドは朝にいいというわけだ。
それでは「焼き魚」はどうか?
「もちろんOKです。私たちの実験結果では、炭水化物+タンパク質が体内時計をガツンと動かすのに一番効果的でした。ですからツナサンドならパン(炭水化物)とツナ(タンパク質、DHA・EPA)で理想形ですし、焼き魚ならご飯とセットがいいですね」
朝からそんなに食べられないよ……という人は、「魚肉ソーセージでもいい」と大池氏。
「魚肉ソーセージもツナと同様、魚由来のタンパク質が手軽に取れる。マグロやイワシを原料にしている商品もあります」
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ジャーナリスト
1978年生まれ。「サンデー毎日」記者を経て、2018年よりフリーランスに。著書に『救急車が来なくなる日 医療崩壊と再生への道』(NHK出版新書)、『室温を2度上げると健康寿命は4歳のびる』(光文社新書)、プレジデントオンラインでの人気連載「こんな家に住んでいると人は死にます」に加筆した『潜入・ゴミ屋敷 孤立社会が生む新しい病』(中公新書ラクレ)など。新著に、『野良猫たちの命をつなぐ 獣医モコ先生の決意』(金の星社)と『老けない最強食』(文春新書)がある。ニッポン放送「ドクターズボイス 根拠ある健康医療情報に迫る」でパーソナリティを務める。 過去放送分は、番組HPより聴取可能。
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