任天堂はSwitchを超えるゲーム機を作れるのか…「自社史上最も売れたハードの後継」に求められるもの | ニコニコニュース
■任天堂史上最も売れたSwitchの後継機種が間もなく誕生
2024年5月7日、任天堂はX上のアカウントにて、今期中にNintendo Switchの後継機種に関するアナウンスを行うことを発表した。
Nintendo Switch(以下、Switch)といえば、もはやゲームファンでなくとも名前ぐらいは聞いたことがあるゲームハードだ。任天堂の株主・投資家向け情報によれば、Nintendo Switchの販売台数は1億4132万台。据置機としては、過去最大のヒットを遂げたWiiの1億163万台を大きく上回っている。
これほどのヒットを遂げたSwitchの後継機種ということもあり、今回のアナウンスの予告には多大な注目が集まった。しかし、Switchは一体どうして任天堂史上最大のヒットを遂げるほどの成功を収められたのだろうか。Switchが他の歴代ハードと異なる強みや魅力はどこにあったのだろうか。Switch後継機種の発売も迫る昨今、改めてSwitchのマイルストーンについて分析したい。
■逆境の中で生まれた「Switch」
改めて、Switchというハードウェアとは何だったのかという事実から確認していこう。
Switchが最初に公表されたのは、2015年3月。「任天堂株式会社 株式会社ディー・エヌ・エー 業務・資本提携共同記者発表」の中で、スペックや姿は一切わからないものの「NX」という開発コードのみ明かされる。
それから1年半後の2016年10月、当時の代表取締役社長の君島達己によって正式名称が「Nintendo Switch」であること、「自宅か外出先かを問わず、一人でも大勢でも楽しめる娯楽体験」がコンセプトであることが、具体的なハードウェアの詳細とソフトウェアラインナップともども発表された。
任天堂株式会社 株式会社ディー・エヌ・エー 業務・資本提携共同記者発表
任天堂株式会社ニュースリリース2016年10月20日
このように、一見して順風満帆に発表されたSwitchだったが、少なくとも現在の大ヒットから想像もできぬほど当初の反響は好意的なものだけではなかった。それは、Switchの前に発売された「WiiU」の不振に起因する。
■過去最低の売上となった「Wii U」
遡ること2006年。同年に任天堂が販売した「Wii」は、従来のコントローラーではなく「リモコン」を用いて「リビングの娯楽」を突き詰めたことで、最終的に1億台を超えるほど成功していた。さらに2004年に発売していた「ニンテンドーDS」も同様に大ヒットしていたこともあり、当時の任天堂は、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いで躍進していた。
ところが2012年、「Wii」の後継機種となる「Wii U」を発売したところ、Wiiの成功とは裏腹に売上が伸び悩んだ。Wii Uは最終的に1356万台と、Wiiの約13%しか売れず、任天堂ハードとして過去最低の売上に留まってしまった。
WiiUは、コントローラーとディスプレイが一体化した「Wii U GamePad」を用いることで、Wiiから続く「みんな」と遊ぶ方向性と「ひとり」で遊ぶ方向性を両立することを志向したハードだ。
しかし、このコンセプトが今一つ伝わらなかったと当時の社長、岩田聡は株主総会で語っている。このWii Uの不振により任天堂はかなりの間、経営的な困難に直面する。2014年までには営業赤字が3期続き、マスコミからは任天堂そのものが危ういのではという報道もされた。Switchはこうした逆境の中で発表されたものであり、期待がそこまで大きくなかったのは自然なことだろう。
しかしそんな暗雲漂う憶測とは裏腹に、2017年3月に発売されたSwitchは即座に売り切れ、購入しようにも予約すらままならないというロケットスタートに成功した。
■Switchの「勢い」を支えたゲームソフトたち
少なくとも直前の実績を鑑みれば、Nintendo Switchに寄せられる期待はそう大きいものではなかった。にもかかわらず、Switchは発売まもなく完売が続く大盛況となる。一体何があったのか。
それはSwitchそのものの革新性に加え、Switchで遊べるゲームソフトの魅力的なラインナップが作り出す「勢い」にあった。
例えばSwitchが発売された2017年3月3日には、任天堂オリジナルのタイトルとして『1-2-Switch』と『ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド』が発売している。特に後者は「ゼルダ」シリーズとして、あるいはオープンワールドゲームとして非常に素晴らしい内容だったことから世界各地で評価され、その年の様々なゲームアワードに輝いた実績を持つ。
さらに翌月4月には『マリオカート8デラックス』が発売。こちらは人気シリーズをブラッシュアップした内容によって長期にわたって支持され、販売本数は6000万本を超えるなどSwitchで最も売れたタイトルに育つ。更に7月には『スプラトゥーン2』、10月には『スーパーマリオオデッセイ』など、いずれも販売実績が1000万本を超えるキラータイトルが、発売して1年も経たぬ間に4本もリリースされたのだ。
■「プラットフォームの成否は勢い次第」
これに対しWii Uは、最終的には『スプラトゥーン』のようなキラータイトルが存在していたものの、発売から1年以内に限れば決してタイトルが豊かとは言えなかった。
確かに『ピクミン3』『スーパーマリオ3Dワールド』のような名作は存在するのだが、「マリオカート」「スプラトゥーン」のような鉄板タイトル、あるいは『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』『スーパーマリオ オデッセイ』のようなシリーズの革新的なタイトルほどのインパクトは市場にもたらさなかったのである。
実際、2014年1月に開かれた任天堂の説明会では「(Wii U)立ち上げの初期に(有力な)タイトルを出せていない」という厳しい指摘がなされ、それに対し、岩田聡は「プラットフォームの成否は勢い次第であり、勢いがあるうちは相乗効果が得られるが、勢いを失えばネガティブな効果がある。Wii Uはその勢いを作り出せていない状況」と非常に鋭い分析を見せている。
任天堂株式会社2014年1月30日(木)経営方針説明会/第3四半期決算説明会質疑応答
SwitchはこうしたWii Uの失敗を踏まえ、初期から妥協なくキラータイトルを送り続けることで、強引に岩田のいう「勢い」を作り出したことにより、その成功の土台を築く事に成功したのだ。
■Wii Uの失敗があったからSwitchは成功した
それどころか、むしろ好意的に考えれば、Wii Uの失敗があったからこそSwitchの成功に至ったとも考えられる。
実は、Switchのロケットスタートの皮切りとなった『ゼルダ』は当初Wii U向けに開発していたが、内容を改善するうえでSwitch本体の発売日まで発売を延期し、WiiU版と同時に発売している『マリオカート8』はそもそもWii Uで発売されたタイトルをブラッシュアップして移植しているし、『スプラトゥーン2』もWii U版での実績を踏まえて改善したタイトルだ。
いずれのタイトルも、本来はWii Uにおける試行錯誤の賜物であり、Switch向けに一朝一夕で作ったものではない。Wii Uにおける頓挫を踏まえたうえで、ここでの研究や開発を次世代機であるSwitchに持っていくという冷静な判断こそが、実のところSwitch成功の秘訣だったのではないか。
■発売開始7年間で毎年ヒットタイトルを出し続けた
かくしてソフトウェアによる「勢い」を確保したSwitchは、ローンチから1年経過する2018年以降も、次々にヒット作を販売してはその「勢い」を維持し続けてきた。
2018年には『スーパーマリオパーティ』のような鉄板シリーズに、シリーズ最大の規模を誇る『大乱闘スマッシュブラザーズSPECIAL』を発売。さらにペーパークラフトによってSwitchそのものを新しい玩具へ仕立てる「Nintendo Labo」シリーズなど斬新なシリーズによって話題も維持した。
2019年には『スーパーマリオメーカー2』に加え、『ポケットモンスターソード・シールド』によって新しい風を呼び込みながら、2020年にはニュースや新聞にも頻出した『あつまれどうぶつの森』を発売。同時期、コロナ禍による「巣ごもり需要」が高まったこともあいまって、Switchの「勢い」は最盛を迎える。
それ以降も2021年には『モンスターハンターライズ』『スーパーマリオ3Dワールド+フューリーワールド』、2022年には『ポケットモンスタースカーレット・バイオレット』『スプラトゥーン3』、2023年には『スーパーマリオブラザーズワンダー』『ピクミン4』『ゼルダの伝説ティアーズオブザキングダム』と、任天堂は必ず毎年ヒットタイトルを生み出し「勢い」を維持し続けた。
その結果、Switchは性能的に限界が見え隠れする中でも、発売から7年経過する今となってもコンソールゲームビジネスの中心に居座り、任天堂史上最も売れたゲームハードとしての伝説を築き上げた。これがSwitchの評価となる。
■「Switch後継機」の成功には良質で豊富なソフトが必須
さて、ここまで論じたことを踏まえ、Switchの後継機となるゲームハードについての展望も少し論じたい。
現状「Switch後継機」の情報は全くといっていいほどなく、その性能やコンセプトについて考えても、あまり建設的とは思えない。しかしこのSwitchの成功を鑑みるに、必ず問われることを確信できるのが、やはりゲームソフト、それも任天堂独自の豊かな体験を味わえるゲームソフトの充実度であろう。
繰り返すように、Wii Uは1年目にキラータイトルを展開しきれず「勢い」を失い、ハードやソフトを活かしきれなかった。一方でSwitchは初速から「勢い」をつけ、さらに1年ごとに話題を切らさないことで「勢い」を維持したことが、大成功へと繋がった。
この理屈で考えれば、当然「Switch後継機」が成功するかどうかも、岩田がかつて語った「勢い」を維持できるかどうか、ということに尽きる。つまるところゲームソフトをどこまで任天堂で揃えられるかが、その成否に直結するだろう。
もっとも「良質なゲームソフトを揃える」というのは口で言うのは簡単だが、行うのはこの上なく難しい。そもそも面白いゲームを作ることに再現性などほとんどない。いくら優秀な開発者が集まり、予算が潤沢にあったとしても、失敗したゲームは星の数ほどある。任天堂はSwitchの時代にはこの奇跡的な成功を連続させてきたが、それがどれほどの困難だったかは想像に難くない。
ただ強いて言えば、優れた作品を生み出すのに必要なのは、何よりも人材である。そして任天堂には世界中から才気あふれる人材を集め、活用するための手段が恐らく確立されている。この人材という強みを継続して活かせるシステムを発展させられるかどうか、それが「Switch後継機」並びに今後の任天堂に問われる争点となるだろう。
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作家、ゲームジャーナリスト
noteにて日本初となる独立型ペアウォールゲームメディア「ゲームゼミ」を主宰。1500人もの購読者を抱える。TBSラジオ「アフター6ジャンクション」準レギュラーのほか、ラジオ、テレビ、雑誌でも活動する。
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