父の死を知った叔父が、祖父の相続問題を蒸し返し…
花子さんの父親の太一さんは、世田谷に、自宅と貸マンションを持っている資産家です。花子さんの母で、太一さんの妻の陽子さんは、1年前、急病のため亡くなりました。すると、今年になって太一さんも後を追うかのように亡くなってしまいました。
問題は、花子さんの父親の弟で、叔父にあたる健二さんです。
太一さんが亡くなるやいなや、花子さんのところに来て、
「太一さんの自宅と貸マンションが建っている土地は、もともと、太一さんと健二さんの父親である一郎さんのものだった。それを一郎さんの相続のときに、太一さんが遺産を独り占めした」
「そこで、健二さんにも2分の1相続権があるので、花子さんが相続したら、土地の2分の1を自分名義にするか、土地を売って代金の2分の1を自分に渡せ」
と、激しい口調で迫り、花子さんは怖くてたまりません。一郎さんの相続は、30年も前の話です。
花子さんはどうしたらよいでしょうか。
①健二さんは一郎さんの遺産の2分の1を取得できるから、花子さんは、土地の2分の1を渡すか、売った代金の2分の1を渡さなければならない。
②花子さんは、太一さんが健二さんに土地の2分の1に相当する金額を支払ったことを証明できなければ、土地の2分の1を渡すか、売った代金の2分の1を渡さなければならない。
③花子さんは、一郎さんの相続の際の遺産分割協議書で太一さんが全部相続すると合意されていることを証明できなければ土地の2分の1を渡すか、売った代金の2分の1を渡さなければならない。
④花子さんは、土地の2分の1を渡したり、売った代金の2分の1を渡したりする必要はない。
30年前の遺産分割協議書が残っているかどうか
相続は前の世代から次の世代に財産を承継していく手続なので、先祖代々受け継がれてきた土地が対象となることは多いです。それとともに、前の世代からのトラブルも引き継いでしまうということがあります。
今回のケースは、祖父である一郎さんの相続の際の不満や揉め事をその当事者である太一さんが亡くなったあとに、娘の花子さんに、主張しているものです。
本件では、一郎さんの相続の際に、太一さん相続分2分の1、健二さんの相続分2分の1でした。
しかし、現在は、対象となる土地は、一郎さんから太一さんに相続登記がされており、すべて太一さん名義となっていることから、遺言があったか、遺産分割協議書を交わしたかのいずれかで登記名義を変更したことが考えられます。
したがって、当時の遺言書や遺産分割協議書が残っていれば、それを見せて、遺言か遺産分割協議書により登記をしたことを証明すればよいのですが、30年も前の話では残っていないのが普通です。
登記をしてくれた司法書士も、資料を保管してくれているかはわかりませんし、そもそもその司法書士がいまも司法書士をしているかもわかりません。
法務局に登記申請書の添付書類を閲覧することも考えられます。
しかし、現在は土地の登記の添付書類は50年保管されていますが、平成20年7月22日より前の登記の添付書類の保管期間は10年でした。
したがって、いまから30年前の相続登記の添付書類を法務局で閲覧することはできません。
では「30年前の相続の際に遺言書があった」あるいは「遺産分割協議書を交わした」と証明できないときはどうすればよいでしょうか。
相続登記がなされているということは、法務局が遺言書、あるいは遺産分割協議書を確認して登記をしています。そして、遺産分割協議書には印鑑証明書を添付する必要があります。
相続登記がなされていることが「解決ずみ」の証明に
したがって、相続登記がなされていることから、少なくとも遺言書あるいは遺産分割協議書等があったことは明らかで、一郎さんの遺産分割はすでに解決ずみなので、遺産分割をこれからする必要はないということとなります。
すなわち、土地の2分の1を渡す必要もないし、土地を売って代金の2分の1を渡す必要もありません。
もちろん、代償金として土地の2分の1に相当する金額を支払う必要もありません。
よって、「花子さんは、土地の2分の1を渡したり、売った代金の2分の1を渡したりする必要はない」とする選択肢④が正解となります。
ただし、花子さんが自分で叔父さんである健二さんに伝えたとしても、叔父さんは納得しないでしょうし、年齢が上である叔父さんにはいいにくい、ということもあると思います。そのような場合は弁護士に依頼し、叔父さんの要求には応じる必要がなく、応じるつもりはない旨の回答書を出してもらったほうがよいと思います。
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