元プロ野球選手を父に持つ山田裕貴。父を思う涙にみる俳優としての“底知れぬ魅力”とは | ニコニコニュース
いい役柄を得て、演技が上手ければ、その俳優は魅力的に映るのだろうか。いや、それだけではない。
当然ながら、その人自身が魅力的な人間性をにじませている必要がある。その点、山田裕貴は、演じる役柄にも本人にも興味深いもをたくさん持っている。
「イケメンと映画」をこよなく愛する筆者・加賀谷健が、どんどん興味が湧いてくると感じる山田裕貴の魅力を解説する。
◆人一倍魅力的に映る姿
久しぶりにテレビドラマの主人公で魅力的な人物を見つけた。その人は、オーナーから店を任される人気カリスマ美容師。貧しかった頃、ひとりで育て上げた弟がいる。その弟は、グレた挙げ句に警察のやっかいになる。兄は、ただただ大切な弟に裏切られたと感じている。
『ペンディングトレイン』の萱島直哉(山田裕貴)は、ざっとこんな過去を持つ人物だ。ある朝、乗車した電車が、突如未来へワープしてしまったことから、直哉の日常は、一変する。荒廃した世界で、エゴ剝き出しの乗客たちとサバイバル生活を余儀なくされるからだ。
単独行動が好きな直哉は、正義感にあふれ、リーダーシップをとる消防士・白浜優斗(赤楚衛二)と馬が合わない。他者と共生するうち、彼は、自分が抱える過去の葛藤と向き合うことになる。
もちろん簡単な話ではない。でもだからこそ、葛藤し、もがく直哉の姿は、人一倍魅力的に映る。
◆素直じゃないが、力強いキャラクター
第6話、直哉は、焚き火を囲む仲間たちにこんなことを言う。
「俺は何にも期待しない。そう決めてるの」
ひどい頑固者で、自分で自分をがんじがらめにしている。なんて不器用な人なんだろう。最初は相手にもしていなかったのに、いつかしかほのかに心を寄せるようになる畑野紗枝(上白石萌歌)には、素直じゃないと言われる。
第7話、サバイバル世界に嵐の雨が降りしきる中、直哉と紗枝は、手製の草屋根で雨宿りする。好きな相手だから、ぶるぶるふるえる紗枝に自分のコートを貸してあげようとするのだが、やっぱり素直にできない。なんやかんやといらないことを言ってしまう。
それですこし言い合いになり、過去の葛藤がぐっとせり上がってくる直哉が言う。
「それが逃げてる? それが俺なんだよ」
どこまでも素直じゃない。でもこの言葉は、彼の真実の叫びだ。こんながんじがらめキャラだが、その分、彼が行動に移したときにはきっとすごいことになる。直哉には、そう感じさせる力強さがある。
◆山田裕貴にどんどん興味が湧いてくる場面
萱島直哉のこうした魅力、理由は、本作の脚本家である金子ありさのキャラクター造形にある。
ゴールデンプライム帯連ドラ初主演の山田裕貴が演じる役柄だ。山田を大舞台に立たせるため、脚本家としての相当な力の入れようと試行錯誤を感じる。
創造されたキャラクターは、一貫した葛藤を持ち、シンプルで線的な性格。エモーションが高まることでこの性格設定が強調され、すごく鮮やかに映る。
いい脚本を得た山田は、いい演技で応じる。それどころか、百人力で、唯一無二の魅力をにじませている。どの場面でも役柄を深く理解した複雑な心情を浮かび上がらせているが、特に第5話は、素晴らしかった。
全員で力を合わせ、創意工夫のすえに露天風呂を完成させる。乗客たちが順番に汗を流したあと、直哉は、星空を眺めながら、お湯に浸かる。意外とロマンチストでもある。
山田裕貴が入浴する。単なるサービスショットかと思いきや、どっこい、全然違う。風呂の水面に反射した月明りに照らされ、うっすら縁取られる星夜の表情に息を呑む。
なんだろ、この麗しさ。山田裕貴という俳優になんだかどんどん興味が湧いてくる。すごく不思議な場面だった。
◆父親は元プロ野球選手
山田裕貴について、もっと知りたい。そう思った筆者は、手前味噌ながら、山田についていろいろと調べてみた。すると興味深い写真が見つかった。野球のユニフォームに身をつつんだ姿だ。
2018年8月10日、山田は、中日ドラゴンズ対東京ヤクルトスワローズ戦の始球式に登場した。今まさに投球しようとするフォームを見て、素直に驚いた。73キロの急速を記録した彼が、小学生時代には、リトルリーグに所属する野球少年だったとは、まったく知らなかった。
しかも父親が、ドラフト4位指名で中日に入団し、広島カープでも活躍した山田和利だというのだから、なおさらのこと。こんなポテンシャルまで備えていたのか。いやはや、山田裕貴、恐るべし!
◆人間・山田裕貴のこらえ涙
プロ野球選手を父に持っていたことが、今の俳優人生に深い影響を与えていることは、出演したバラエティ番組で度々語られている。
先日放送された『日曜日も初耳学』(TBS系、5月21日放送回)でも折に触れて本人から語られていたが、やっぱり『人生最高レストラン』(TBS系)での出演回(2021年12月4日)が忘れがたい。
父の背中を見て、自分も野球の道を志した山田だが、名門・東邦高校に入学したときには、野球部に所属しなかった。当時のことを振り返りながら、山田の口調は、エモーショナルになっていく(まさに直哉のように)。
あまり褒め言葉を言わない父だというが、妹からの番組宛メッセージでは、息子を慈しむ父の思わぬ顔がのぞく。グッときた山田は、涙を溜める。「ヤバいっすね」と言いながらも、必死でこらえていた。
このこらえ涙が、彼の頬をつたうことはないが、それだけに山田の熱い人間味を感じる。どこまでもストイックな山田裕貴という俳優の魅力をすべて説明してくれてもいる。いやそれ以上に、人間・山田裕貴に触れられた気がした。
6月23日放送の『ペンディングトレイン』最終話では、どんな底知れぬ表情が見られるのか。こちらはどうも涙を堪えられそうにない。
<文/加賀谷健>
【加賀谷健】音楽プロダクションで企画プロデュースの傍ら、大学時代から夢中の「イケメンと映画」をテーマにコラムを執筆している。ジャンルを問わない雑食性を活かして「BANGER!!!」他寄稿中。日本大学芸術学部映画学科監督コース卒業。Twitter:@1895cu