6時間睡眠を2週間続けると集中力は酩酊状態レベルに…「電車で居眠りをする人は危険」といえる理由【2023上半期BEST5】 | ニコニコニュース
※本稿は、西野精治・木田哲生『最高のリターンをもたらす超・睡眠術』(大和書房)の一部を再編集したものです。
■慢性の睡眠不足は自覚しにくい
「毎日しっかり眠れていますか?」。
大人向けの睡眠面談でこのように尋ねると、「まあまあ、普通に眠れています」という言葉がよく返ってきます。「では、昨夜は何時に寝ましたか?」と重ねて訊くと、「○時頃だったと思うけど……」「スマホを見ながらいつのまにか寝落ちしてしまったのでわからないです」など、返事は曖昧です。
しかし、みなさん決まって最後にこうおっしゃるのです。「でも大丈夫、仕事はできていますから」。毎日忙しいのだから、そんなものだと思っているのかもしれません。しかし、脳の働きは決して「大丈夫」ではありません。
睡眠と脳の働きに関して、ペンシルベニア大学などの研究チームが行った有名な実験があります。この実験から得られた結果は、「6時間睡眠を2週間続けると、集中力や注意力は2日間徹夜した状態とほぼ同じレベルまで衰える」という驚くべきものでした。
2日間徹夜した人は、「自分は徹夜したから頭が働かない」と自覚できます。しかし、6時間睡眠を2週間続けた人は、頭が働いていないことを自覚できず、むしろ「普通に頭は働いている」と感じます。もしかして、あなたもそうなのではないでしょうか。
ちなみに、徹夜した人の脳の働きは、酎ハイを7~8杯飲んで酔った状態だといわれています。2日間の徹夜となると、それ以上の酩酊(めいてい)状態です。つまり、6時間睡眠を2週間続けている人は、毎日、酔っぱらった状態のような脳で、しかもそれに気づくことなく仕事や勉強、社会的な活動などをこなしているわけです。
睡眠不足による体の異常は察知しやすくても、脳への影響はそれだけ自覚しがたいということです。
■仕事で大きなミスをしかねない
徹夜などによる短期的な睡眠不足には、誰でも対処しようとします。「今日は早く寝よう」「お風呂にゆっくり入って、体を温めよう」「お酒はやめておこう」など、今できる精一杯の工夫をするでしょう。「徹夜で疲れた」「頭も体も回復させたい」と切実に感じ、明日も脳を最高の状態にしてバリバリ働きたいと思うからです。
こうした短期的な睡眠不足には気づきやすいのですが、中長期に及ぶ慢性的な睡眠不足には気づきにくいものです。そのため、集中力が低下している状態にも気づきにくく、そのまま仕事や作業を続けていると、ミスやヒヤリハットが発生しやすくなります。やり直すチャンスがあるならば挽回もできますが、とり返しのつかない事故を招いてしまうようなケースも実際にはたくさん起こっています。睡眠不足による脳のパフォーマンスダウンを自覚できないことは、とてもリスキーだといえるのです。
集中力は、仕事や学業で結果を出すために欠かせないものだと、みなさんよくご存じだと思います。ただ、パフォーマンスが高い人のことを「あの人は集中力がある」という言い方をすることもあり、集中力とは生まれつきの能力のようにとらえられている面があるのではないでしょうか。しかし、そうとは言い切れないようです。
私はこれまで、子どもたちの睡眠を改善するための「みんいく」(睡眠教育)を行ってきました。その実践研究を通してわかったのは、睡眠と学習への意欲や集中力には相関関係があるということです。
実践研究の詳細は後述するのでここでは簡単に触れますが、自分が「何時に寝て何時に起きているかを知る」だけで、日々のパフォーマンスがよい方向へ変化します。みんいく調査実施中学で、みんいくを始める前の年と、みんいくに一年間取り組んだ年を比較したところ、「授業に集中できている」と肯定的にとらえた生徒は、1年生で72.5%から85.5%に、2年生で72.5%から78.3%、3年生で77.1%から81.5%に改善しました。
これまで教育の現場で子どもたちを見てきた立場からも実感できるのですが、日々の過ごし方によって発揮できる集中力は大きく変わってきます。集中力を生み出す重要な基盤が睡眠であることが、調査で浮き彫りになったのです。
■睡眠不足の4つのサイン
子どもの学習への意欲や集中力と睡眠との相関関係と同じことが、大人にもいえます。
朝、会社に着いた時点でもう眠いという経験はないでしょうか。それは明らかに睡眠不足が慢性化している証拠です。そのような状態で仕事に打ち込んでも、集中力不足、パワー不足で本来の力を発揮するのは難しいでしょう。
そこで、まずみなさんに実践していただきたい最初のアクションは、ご自身の睡眠不足をチェックすることです。慢性化すると気づきにくい睡眠不足ですが、昼間の生活から寝不足のサインをチェックできます。睡眠不足のサインには、次の4つがあります。
①「朝起きてから4時間後に眠気がある」に当てはまる人は、かなりの睡眠不足と考えられます。一般的に、起床4時間後というのは強く覚醒している時間帯だからです。おそらく朝の目覚めがスッキリしない状態のまま仕事や作業に取り組むため、午前中の頭の働きに支障があるうえ、②「昼間にだるさ、しんどさを感じ」やすくなります。
そうすると、③「電車や車の中で居眠りをする」といったことも日常化します。この③は国際的な眠気尺度であるエプワース眠気尺度の一つで、「座って人と話していると眠気がある」「座ってテレビを見ていると眠気がある」などもチェックポイントになります。
そして、④「休みの日に普段より2時間以上長く寝る」が習慣になると、後述しますが、睡眠にとってたいせつな「リズム」が狂い、さらに睡眠不足の悪循環に陥ってしまいます。
「たかが睡眠不足」が、慢性的な集中力不足を招きます。それは、集中力だけにとどまらず、脳の働き全体の低下につながっていきます。今まで当たり前と思ってきた日常の行動を見直し、少し意識を変えるだけで気づけることもたくさんあります。今日という日を、毎日の睡眠を変えていくスタートにしましょう。
■睡眠を記録しよう
よい睡眠習慣をつけるのは、忙しい毎日のなかで難しいことと感じられるかもしれません。しかし、実は意外に簡単で、誰でもすぐに実践でき、しかも効果を発揮する方法があります。それは「睡眠を記録すること」です。
私が子どもたちの睡眠改善を目指して行ってきたみんいくでは、「睡眠・朝食調査票」(以下、睡眠調査票)を活用しています。これは、寝た時間を黒く塗りつぶして、自分の睡眠を確認してもらい、体質や生活状況に合った睡眠の課題を考えていくために欠かせないツールです。
睡眠調査票は、時間軸の左端が0時、右端が24時になっていて、就寝時間から起床時間までのマス目を塗りつぶせば、毎日の睡眠時間が一目瞭然になります。
実践調査を重ねるうちに、子どもたちによく見られる「睡眠のタイプ」が見えてきました。さらに、大人の睡眠相談も行うようになると、それらのタイプは成人にもよく見られるもので、現代人に多い睡眠パターンであることがわかってきました。
ここで代表的な睡眠パターンを紹介したいと思います。あなたの睡眠はどのタイプに近いでしょうか。
■寝る前にスマホを見てしまう人の睡眠パターン
【夜ふかしタイプ】
寝る寸前までスマホを見たり、ゲームをしたりしていて、寝る時間が遅くなるタイプです。入眠時間がズルズルと後ろへずれやすく、結果的に朝の目覚めが悪くなりがちで、子どもたちに最も多く見られます。
ついつい寝る前にあれこれやっていて、気づいたらもう深夜1時というのは、大人にもよくあることでしょう。その場合、睡眠調査票の右端の最後のマス(23時から24時)は塗りつぶされず白のままで、左端の最初のマス(深夜0時)も白です。
図表1は、右端に黒よりも白が多く、左端にもときどき白がある状態ですから、夜ふかしが習慣になっていることがわかります。
このように、睡眠調査票によって毎日の睡眠を可視化することができます。
■「週末の寝だめ」は平日に悪影響を与える
【土日に寝過ぎタイプ】
子どもにも大人にも多いのが、平日の疲れを週末の長い睡眠でとろうとする【土日に寝過ぎタイプ】。いわゆる寝だめが習慣になっているタイプです。週末にたっぷり寝ても睡眠貯金ができるわけではないのですが、たくさん眠れば疲れがとれるのではないかという認識で、昼過ぎまで眠るのが習慣になっている人も少なくありません。
この習慣が、月曜のスタートダッシュの足かせになっている場合があります。また、子どもの場合は、大人の生活習慣に引きずられてしまう傾向が否めません。
■あまり気にしなくていい中途覚醒
【中途覚醒タイプ】
睡眠の途中で目が覚めてしまう【中途覚醒タイプ】は、まさに自分のことだと実感される方も多いのではないでしょうか。中途覚醒は、ある程度の年齢になると、ごく自然に起こる現象ですのであまり気にする必要はありません。
ただ、一度覚醒したら寝つけない状態が続く場合は、知らず知らずのうちに不安や心配事を抱えている可能性も考えられます。メンタルのパワーダウンが、日々の脳のパフォーマンスを低下させるリスクもあります。
このほかにも、毎日の就寝時間がバラバラな【不規則な睡眠タイプ】、夕方や帰宅後につい仮眠をとってしまい就寝時間が後ろへずれがちな【昼寝補充タイプ】、就寝が遅いうえに睡眠時間が非常に短い、いわゆるショートスリーパーの【短時間睡眠タイプ】なども、現代人によく見られる睡眠パターンです。
■睡眠調査票の「両端が黒い」ことが理想
睡眠改善のための取り組みを大人と子どもが力を合わせて行うみんいくは、全校生徒対象の「睡眠朝食調査」、個別の「みんいく面談」(保護者とも連携)、全校生徒対象の「みんいく授業」(睡眠の振り返り、睡眠知識の習得、目標設定など)を柱に実践します。私がみんいくに取り組んだのは、当時の勤務中学校でした。
子どもたちは睡眠調査票に書き込んでみてはじめて、自分の睡眠の状態を知ります。こうして毎日の睡眠を記録してみると、当人が思っているほど睡眠時間がとれていなかったり、布団に入っている時間は長くても寝つくのに時間がかかっているなど、自分の「眠り」の問題が見えてきます。
「早く寝なさい」と言うだけでは子どもの心に響きにくいのですが、睡眠調査票の右端と左端のマス目に白が続く状態を一緒に見ながら、「もう少し早く寝て、両端が黒になるといいね」と言うと、子どもにも伝わりやすくなります。たとえたまたまその日だけだったとしても、早く寝て睡眠調査票の両端を黒に塗りつぶせたらうれしくなり、また今日も黒く塗れるように早く寝てみようかと行動が変わっていくのです。
そうやってほんの少し行動を変えてみて、睡眠調査票の両端が安定的に黒く塗りつぶされた理想的な状態が続いたタイミングで、朝起きたらものすごく気分がよかったり、1時間目から勉強に集中できたということが起こったとします。そんなとき、「睡眠って大事なんだな」と実感して、睡眠に意識が向くようになります。
「この日は寝ている途中で二度起きてるんだね、何かいつもと違ったの?」などと問いかけることがきっかけでコミュニケーションが生まれ、子どもの不安や緊張の原因が見えてくることもあります。教師が学校で接しているだけでは察知できない「睡眠のリアル」と「脳と心のリアル」までもが、睡眠を記録することから見えてくるのです。
■入眠時間と起床時間を記すだけでもいい
毎日忙しいみなさんには、睡眠調査票の記入は面倒に感じられるかもしれませんね。以前、食べたものを記録するレコーディングダイエットが話題になりましたが、この方法も食生活の可視化です。記録することで、「意外に食べているな」「このままではヤバイ……!」という意識が働き、無理なく痩せられるという方法でした。
ラーメンや焼き肉など高カロリーのものを夜遅い時間に食べていたり、無意識のうちにお菓子を口に放り込んでいるなど、自分の食生活を「見える化」することで体重増加の理由が一目瞭然になります。
記録すること、可視化することは、生活習慣を見直し、変えるための大きなきっかけになるのです。睡眠習慣についてもダイエットと同様に、「見える化」がカギになります。
睡眠を記録する際のポイントはシンプルで、いつ寝ているのか、何時に起きているのか、まずはこの2つです。それだけでも十分ですので、ぜひ、記録をしてみてください。
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堺市教育委員会 主任指導主事
上級睡眠健康指導士。日本眠育推進協議会評議員。1983年生まれ。大阪教育大学教職大学院卒業。教育委員会の業務の傍ら、全国各地で講演会・研修会を開催し、睡眠教育の普及に取り組む。著書・共著書に『睡眠教育(みんいく)のすすめ』『「みんいく」ハンドブック』小学校1~3年生用、4~6年生用、中学生用(学事出版)、『ねこすけくん なんじにねたん?』(共編著:伊東桃代 絵:さいとうしのぶ/リーブル)、『ねこすけくんがねているあいだに…』(共編著/伊東桃代 監修:西野精治 絵:さいとうしのぶ/リーブル)、『親子の「どうしても起きられない」をなくす本』(共著:三池輝久/イースト・プレス)などがある。
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