平昌オリンピックのスピードスケート女子500メートル金メダリストの小平奈緒(35)が10月22日、現役ラストレースとなる全日本距離別選手権に出場。北京五輪で銀メダルを獲得した高木美帆らを抑えて優勝し、有終の美を飾った。
地元長野での引退レースは、切符が完売し、満員の中で行われた。金メダリスト、W杯34勝などの”絶対王者”としてだけなく、その人間性も、高い評価を受けてきた小平。彼女は、どのようなスケート人生を送ってきたのか。「週刊文春」の記事を再公開する。(初出:「週刊文春」 2017年12月28日 年齢・肩書き等は公開時のまま)
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「まさに“絶対女王”と言うべき存在になりました」
スポーツ紙記者が絶賛するのは、スピードスケート女子の小平奈緒だ。
得意とする500メートルでは今季のW杯は4戦全勝。この種目における連勝を23に伸ばし、さらに10日には1000メートルでも、世界新記録を樹立した。
「怒った猫になりなさい」
平昌五輪では「金メダル確実」(同前)と言われる絶対的強さの秘密とは?
「バンクーバー、ソチの五輪にも出場したベテランですが、これまではW杯では好成績を残しても、五輪本番ではふるわず、メンタルに課題があった」(同前)
転機となったのは、メダルを期待されながら五位に終わったソチ五輪後。小平は、スピードスケート大国のオランダに単身、“武者修行”に乗り込んだのだ。
「オランダでは元金メダリストのマリアンヌ・ティメルコーチに“入門”。小平にとって現役時代のティメルの闘志あふれる表情が印象的で、彼女に学びたいと思ったそうです」(同前)
ティメルコーチは2シーズンに渡って、技術面を指導したが、とりわけ劇的な進化をもたらしたのは、こんな一言だったという。
「怒った猫になりなさい」
スケート関係者が、この言葉の意味を解説する。
「小平には、スタートの姿勢で低く構えると頭が下がってしまうクセがあった。
そこで戦闘体勢で姿勢を低くしても、頭は下がらない猫をイメージしなさい、と。今ではオランダのスケートファンまで、小平を“怒れる猫(オランダ語ではBOZE KAT)”のニックネームで呼んでいます」
武者修行の成果は、それだけではない。
「異国の地で通訳もスタッフもいない生活をするわけですから、どんなトラブルも自分で処理しないといけない。結果、課題のメンタルが鍛えられて、試合でも動じなくなった」(同前)
さらに、好調を支えているのが、小平が「最強のパートナーです」と語る新スタッフの存在だ。
「小平は今春から、自分のチームに、バンクーバー、ソチ五輪などで長距離種目の元日本代表選手だった石沢志穂を迎えています」(前出・スポーツ紙記者)
小平と石沢は同い年で、中学時代からの親友。石沢は引退後、栄養学を学んでいたことから、食事管理やトレーニングでサポートにあたっているという。
「同じ釜の飯を食った元選手をチームに加えるのは、レアケースですが、小平自らお願いしたとか。競技に限らず、プライベートな話もしているようで、そういう相手が近くにいることも精神的に大きい」(同前)