中学受験が過去最高の受験者数、受験率、過熱の「負の象徴」とされる入試トラブルも | ニコニコニュース
『週刊ダイヤモンド』4月15・22日合併号の第1特集は「わが子が伸びる中高一貫校&塾&小学校」です。小学生たちの戦いが激しさを増しています。2023年の中学入試において、首都圏の受験者数、受験率は過去最高となりました。西の激戦区、関西の受験率も14年ぶりに10%超です。今春、桜が咲き誇る中高一貫校の校門をくぐった子どもたちのうち、第1志望の学校に進学できたのは、3割ほどにすぎないとされます。問題は、この史上空前の“中受ブーム”が24年以降も続くとみられていること。学校間の競争も激化し、入試トラブルも起きる中、入って後悔しない「志望校」と「塾」はどこか、中学受験以上に過熱する小学校受験を含め、その選び方や勉強法をお届します。(ダイヤモンド編集部 宮原啓彰)
“中受”ブームに沸く首都圏と関西
23年最大の話題、「芝国際ショック」とは?
過熱の一途をたどる中学受験。首都圏(1都3県)の直近2023年入試の受験者数は、私立中学と国立中学を合わせて5万2600人(首都圏模試センター)と、過去最多だった前年を上回った。22年入試で17.3%と史上初めて17%を突破した受験率17.86%と0.56ポイント上昇した。四谷大塚の推計でも、受験者数5万4700人、受験率18.6%は共に過去最高だ。
また、関西(2府4県)23年入試では、前年より6年生の数がさらに減少する中、受験者数が1万7279人へと387人増加。受験率は10.01%となり、14年ぶりに10%を突破した。
首都圏の23年入試の特徴について、「近年の首都圏における中学受験ブームは、難関私立大学付属校がリードしてきたが、23年入試では付属校人気が一服する一方で、難関校や上位校への回帰が起きた。コロナ禍が終息に向かい始め、隣県などからの越境入試組が戻ってきたため」と、森上教育研究所の森上展安代表は総括する。
また、SAPIX(サピックス)の広野雅明教育情報センター本部長は「男子では開成の応募者数が近年では最多となり、女子でも桜蔭の応募者数が大きく増加した。両校とも新校舎を建設中で、より充実した教育環境が整備されることへの期待感に加え、開成は海外大学進学などグローバル志向にかじを切り、桜蔭は制服でスラックスを選択可能にしたり、オンライン英会話を導入したりするなど、先進的な学校改革が人気の背景にある」という。
この難関校回帰について、「23年を象徴する例として、女子最難関の桜蔭では22年の補欠合格者27人中25人まで繰り上がったが、23年は同29人中ゼロ。受験者増に加え、歩留まり率も上がっている」と、四谷大塚の岩崎隆義情報本部本部長はいう。
片や、関西で起きているのは二極化だ。日能研関西の森永直樹取締役は「日能研でいう偏差値60以上の難関校と、同40以下の入りやすい学校の受験者が増えた」とする。
そんな難関校回帰や二極化に象徴される23年の中学受験において、首都圏で大きな話題となったのが、応募者数が“爆増”した2校の中高一貫校、日本学園と芝国際だ。
このうち伝統男子校の日本学園は、26年4月から明治大学系列の共学校になり、学校名も明治大学付属世田谷に変わり、7割の生徒が明治大に推薦入学できるようになることが人気の理由だ。
一方の芝国際は、23年の出願数が延べ4681人と22年の73人から64倍に増え、首都圏で2番目に多い出願数(延べ数)を集めた。
東京女子学園を前身とする、タワマン林立で人口増加が著しい“湾岸系”の新設校で、23年から共学化され校舎と共に学校名も一新した。近年の売れ線である「新設」「国際」「共学化」のキーワードをそろえた同校が、目下の中受ブームをけん引する湾岸エリアに誕生したことで、志願者が殺到したわけだ。
だが、いざ入試が始まると前評判から一転して“炎上”の憂き目に。大手塾幹部は「受験生と保護者が『どうしても受けたい』と言わない限り勧められないと思う。『合格者を多く出す』とか、当初の学校説明会で言っていたことが結果的に全てうそだったのだから」と憤る。
一体何が起きたのか。芝国際は募集人数120人に対し、数十種類もの入試を実施。ところが、募集人数のうち35人を占める国際生コースで辞退者を見越して多くの合格者を出したところ、想定を超える歩留まり率の高さになり、一般生の枠が大幅に削られてしまい、一般生入試の倍率が軒並み30~50倍超に達したのだ。
首都圏模試センターの一般生コース受験者の偏差値の合否分布では、東京女子学園の時代は偏差値30台でも合格圏だったが、23年は60前後でもほぼ不合格となっている(図参照)。だが、こうした実態や各試験の倍率などはHPなどでほとんど一般に開示されないままだ。
さらに受験生にとって他校への出願締め切りを左右する合格発表時刻も大幅に遅れ、入試問題にミスがあるなどトラブル続きだった。
「芝国際の一件は、“キャラ変”新設校ブームの終わりの始まりになりかねない」──。
そう指摘するのは、教育ジャーナリスト、おおたとしまさ氏だ。おおた氏は「受験生をかき集めるべく考えられる入試オプションを“ぜんぶ載せ”したために、実受験者数が読めない上、入試会場でのオペレーションが煩雑になり、合否判定に長時間かかる事態に陥った」と指摘。
その上で「何よりひどいのは、事後対応。自分が受けた入試の顛末が分かるデータを公開するのは、受けてくれた親子への最低限の責任であるはず。しかし積極的な情報開示の姿勢が見られない。新校長に質しても『塾には出している』とかみ合わない回答だった」(おおた氏)。
芝国際の問題は、過熱する中学受験の負の象徴ともいえる。ブームで学校の競争も増す中、はやりに惑わされない志望校選びが求められている。